大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(ワ)5989号 判決

原告 千葉相互銀行

理由

原告相互銀行主張の一及び三の事実は、被告らが自白したところである。

被告川島隆継本人尋問の結果及び同被告作成部分につき成立に争のない甲第一ないし第八号証の各一の表面の記録によれば同被告が被告株式会社に拒絶証書作成を免除して、係争約束手形八通を裏書譲渡したことが認められる。

定司が被告株式会社の記名印及び代表者真一郎の職印を用いて、係争約束手形八通に拒絶証書作成を免除して、原告相互銀行に、それを裏書譲渡したことは、被告株式会社が自白したところである。

原本の存在及び成立に争のない甲第一六号証、第一七号証の一ないし四、成立に争のない甲第一五、第一八、第一九号証の各記載、証人御園武雄の証言及びその証言により全部につき真正に成立したと認める甲第九号証の一、第一〇号証、第一二号証、第一三号証、第二〇号証の各記載証人鈴木定司、同古川伸の各証言によれば、次の事実が認められる。

被告株式会社の代表取締役は高齢であつたので、その経営及び金融工作を婿養子定司に任せ、その記名印、代表取締役の職印の使用を同人に委ねていた。定司は、被告株式会社を代理して、昭和三八年四月六日、東金支店に対し、平和相互銀行振出の金額四六〇万円の小切手一通を担保として、四六〇万円の借受を申込んだので、東金支店は、被告株式会社にその金員を貸与した。定司は、被告株式会社が、その支払の為、同年同月八日、原告相互銀行にあて、振出した金額を四六〇万円、満期を同年同月一五日、支払地及び振出地を千葉県東金市、支払場所を東金支店とする約束手形一通及び取引開始の為に必要な同年同月八日附手形取引約定書各一通に、被告株式会社の記名印真一郎の代表取締役の職印を押捺して、真一郎の印鑑証明書一通と共に、東金支店に差入れた。定司は、これより先、同年四月六日、東金支店の支店長代理御園武雄に対し、前記山林の代金三、七七〇万円の手形貸付、及び、それが借受けられたときは、その半額を東金支店に定期預金として預入れることを申込んでいた。その借受名義人は、初め、右山林の所有者五七名ということであつたが、それらの地主は、同年同月一一日、借受人とならない旨協議したので、御園武雄及び東金支店の得意先係長青柳一は、即日、被告株式会社に赴き、定司に対し右手形貸付に対する物的担保の提供を要求したところ、同人は、それを拒絶し、その代り、日本不動産が、右山林の代金支払の為提出すべき約束手形について、被告株式会社が裏書することを承諾した。

定司は同年四月一二日、被告株式会社が、東金支店から、日本不動産が前記山林の買受代金支払の為振出す約束手形を担保として、三、七七〇万円を借入れる旨の借入金申込書一通、及び同年四月一五日付で、被告株式会社が原告相互銀行にあてて振出した、金額を三、六八〇万円、満期を同年一二月三一日、支払地及び振出地を千葉県東金市、支払場所を東金支店とする約束手形一通をそれぞれ、被告株式会社の記名印、真一郎の代表取締役の職印を押捺して、東金支店に差入れた。次いで、定司は昭和三八年五月二九日頃、日本不動産が倒産の恐れがあつたので、被告株式会社を代理して、被告株式会社の日本不動産に対する金額を一八〇万円とする係争約束手形の将来の償還請求権を保全する為、弁護士子安良平に、日本不動産が買受けた前記山林の内五筆に対する仮差押申請を依頼し、その申請を受理した千葉地方裁判所八日市場支部は同年同月三一日、被告株式会社の右申請を容れる仮差押決定を為した。更に定司は、被告株式会社が右仮差押申請に要する保証金二〇万円及びその他の訴訟費用支払の為、被告株式会社を代理して、原告相互銀行から、五〇万円を借受け、その支払確保の為、被告株式会社が同年五月三一日、原告相互銀行にあてて振出した、金額を五〇万円、満期を同年七月二七日、その他の手形要件を前記金額を三、六八〇万円とする約束手形のそれと同じくする約束手形一通に被告株式会社の記名印、真一郎の代表取締役の職印を押捺して東金支店に差入れた。

この外定司は、被告株式会社を代理して、昭和三八年四月三〇日、東金支店から二〇〇万円を借受けた際、被告株式会社が即日、原告相互銀行にあてて振出した。金額を二〇〇万円、満期を同年七月二七日、その他の手形要件を右約束手形のそれと同じくする約束手形に、被告株式会社の記名印及び代表取締役真一郎の職印を押捺して、東金支店に差入れたことが認められる。

以上の認定に反する部分の証人鈴木定司、同古川伸の各証言は、当裁判所の措信しないところである。

これらの事実を綜合すると、真一郎は定司に対し、自己を代理し、右記名印及び職印を使用して、被告株式会社代表者真一郎自身の手形行為を為す権限を与えていたものと謂うことができる。証人鈴木定司は、自分は、前記各手形の振出、裏書その他、原告相互銀行との折衝を、真一郎の承諾を得ないで為したと供述するが、仮りにそれが事実であつたとしても、それは、定司が真一郎から一切を委されていた為、敢えてその度毎に、真一郎の承諾を得る必要がなかつたことを意味するにすぎない。従つて被告株式会社の係争約束手形八通に対する裏書は、定司の記名及び捺印の代行により、有効であると判断せざるを得ない。

次に被告川島隆継の(A)の抗弁につき判断する。同被告が主張する(一)の事実は、当事者間に争がない。証人御園武雄の証言によれば、東金支店の支店長代理御園武雄は、昭和三八年四月一一日、被告川島隆継方に赴き、同被告に対し、日本不動産が前記山林代金支払の為振出すべき約束手形への裏書を乞うたところ、同被告は、それを拒絶した。しかし同被告は同年同月一五日、東金支店に赴き、同被告が日本不動産に売渡した山林の代金支払を要求したので、御園武雄及び青柳一が、係争約束手形八通への裏書及び受取人の記入を求めたところ、同被告は、それに応じて裏書を為したこと。その際右両名が同被告に対し、同被告は形式上裏書人となるに止まり、原告相互銀行は、同被告に対し、その裏書人としての責任を問わないことを申出で、或は確約したことはなかつたことが認められる。右認定に反する部分の同被告本人尋問の結果は、当裁判所の採用しないところである。

そうすると同被告の(三)(四)の抗弁は、いずれも失当であるからこれを排斥する。

次に被告株式会社の(B)の抗弁につき判断する。被告株式会社が主張する(一)(三)(1)及び(四)の事実は、当事者間争がない。

証人御園武雄の証言によれば、被告株式会社主張の(二)(五)ないし(七)の事実は存在しなかつたことが認められる。この認定に反する部分の証人鈴木定司同古川伸の各証言は当裁判所の採用しないところである。被告川島隆継にせよ、被告株式会社にせよ、被告らが係争約束手形八通に裏書するについては、原告相互銀行は、同被告らに対し、裏書の責任を問わない旨確約したとか、その裏書は通謀虚偽であるとか主張するが、証人御園武雄の証言によれば、原告相互銀行は、昭和三八年四月一五日、日本不動産に対し三、六八〇万円を貸与するについて、何人からも物的担保の提供をうけなかつたので、人的担保として、被告らに係争約束手形への裏書を要求し、被告らは、それを知つて裏書したことが認められる。苟も金融機関たる原告相互銀行が、三、六八〇万円という巨額の貸付を為すに際し、担保物権の設定をうけないのに、被告らに対し、手形裏書の責任を問わないことを確約するとか、裏書人と通謀して、裏書を為さしめるということ、即ち物的、人的担保なしに貸付けをするということは、取引の理念に照し、殆どあり得べからざるところに属するのである。現に被告株式会社は、自己の原告相互銀行に対する裏書人としての遡求義務を履行したとき、日本不動産に対して取得すべき遡求権を確保する為、態々原告相互銀行から前記一八〇万円の約束手形を一時借受け、それによつて、日本不動産の前記山林の仮差押を申請しているのである。被告株式会社の裏書が無効ならば、被告株式会社は、何故、原告相互銀行から五〇万円を借受けてまで、日本不動産に対し、前記不動産仮差押を申請する必要があつたであろうか。被告川島隆継、証人古川伸、同鈴木定司らの供述は、すべて経験則に反した供述と謂わざるを得ない。

これを要するに、被告株式会社の抗弁は、すべて失当であるから、これを排斥する。

前段判示の事実に基く原告相互銀行の各請求は、いずれも正当であるから、これを認容…。」

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例